アニメ　「ペルセポリス」イラン革命からイラン・イラク戦争を生き抜いてきた少女の物語です。　

アニメ　「ペルセポリス」

２００７年　フランス

イランに生まれた少女マルジャン(マルジ)が、イラン革命、イラン・イラン戦争によって変わっていく時代の中を生きて抜いていく様を描いたアニメです。

原作者マルジャン・サトラピの半自伝的な連載漫画(バンド・デシネ)『ペルセポリス』をもとに、作られました。

監督
マルジャン・サトラピ
ヴァンサン・パロノー

脚本
マルジャン・サトラピ
ヴァンサン・パロノー

製作
マルク＝アントワーヌ・ロベール
サヴィエ・リゴ

出演者(声)
キアラ・マストロヤンニ
カトリーヌ・ドヌーヴ

音楽
オリヴィエ・ベルネ

原作者『マルジャン・サトラピ』(アイキャッチ画像の人)について

マルジャン・サトラピ曽祖父は、たパーレビ国王の父親レザー・パフラヴィーによって倒されたカージャール朝(１９７６年～１９２５年)最後の皇帝(シャー)アフマド・シャーです。

カジャール朝末期からイランの知識人とイスラム教シーア派との指導者の戦いは続いていましたが、１９７９年のイラン革命がおこりパーレビ国王が退位するまで歴代の皇帝はイランの近代化を進めていました。

ただパーレビ国王は、国王主導の近代化(白色革命)に反対する人々やイスラム教勢力を秘密警察によって弾圧し、排除していました。

その結果１９７０年代のイランは、現在のイランと比べて信じられないほど西洋化されていました。

１９７０年代のイラン

 

１９７０年代　マルジと同じ年ごろの子供たち

 

少女時代のマルジャン・サトラピはこのような時代背景の下で暮らしました。

１９７９年イラン革命の後、イラン・イラン戦争が起こり１９８３年ウィーンのフランス語学校に留学します。

オーストリアに留学した彼女ですが、「自由の落とし穴」と呼んだ自堕落な生活に陥り、故郷のイランに戻りました。

帰国後大学で美術を専攻し、レザーという青年と結婚したけれどすぐ離婚しました。

１９９４年イスラム教の規制が厳しいイランを離れて、フランスに渡ります。

映画『ペルセポリス』はここまでの体験をもとに作られています。

ヘジャーブを着ている、２０１６年のイラン女性

フランスではストラスブールの美術学校でイラストレーションを学んだ後、パリに移りバンド・デシネの作家、ダビッド・ベーと出会い、本格的に漫画家として活動を始めました。

日本で出版されている主な作品

・『ペルセポリスI イランの少女マルジ』（園田恵子訳、バジリコ、2005年6月、ISBN 490178465X ）
・『ペルセポリスII マルジ、故郷に帰る』（同上、ISBN 4901784668）
・『刺繍―イラン女性が語る恋愛と結婚』（山岸智子監訳、大野朗子訳、明石書店、2006年、ISBN 4750323616）
・『鶏のプラム煮』（渋谷豊訳、小学館集英社プロダクション、2012年、ISBN 4796871063）

アニメ　「ペルセポリス」の解説と感想

アニメの題名「ペルセポリス」は紀元前５００年ごろ、アケメネス朝ペルシア帝国のダレイオス１世（ダーラヤーウ１世）が建設した宮殿群です。

１９７８年マルジの暮らしているイランでイラン革命が起き、世の中が大きく変化していた。

パーレビ王朝で倒されたカージャール朝に繋がるマルジの一族は、かってイラン北部がロシアに支配されていた(イラン南部はイギリスが支配していた)関係で共産主義者が多かったため、逮捕され投獄されている人たちが多くいました。

イラン革命で今まで投獄されていた政治犯が解放され、マルジは、父の友人のシアマークや叔父さんのアヌーシュ達から学校で教わらない本当のイランの歴史を教わりました。

始めイラク革命は、イスラム教勢力の他、知識人・商人からなる国民戦線、イラン共産党ツデー党などが参加して始まりました。

共産主義者だったマルジの叔父アヌーシュや、父の友人シアマークはイラン共産党ツデー党の政治集会で、イラン革命によって自由で民主的な国を作ろうと活躍していました。

しかしイスラム教シーア派のホメイニ師が革命の主導権を握ると、これらの反宗教勢力は粛清され、シアマーク一家は亡命し、叔父のアヌーシュは逮捕され刑死します。

この粛清は軍部にも及び、イラン軍が弱体化したのを狙ってイラクがイランを攻め、イラン・イラク戦争が始まりました。

イランの首都テヘランも爆撃されます。

両親は、イスラム教の教えに反発してばかりいるマルジの身の安全のため、ウィーンにあるフランス語学校に留学させました。

しかし、平和なオーストリアでの生活になじめないマルジは、２度の恋愛に失敗し、最後はホームレスとなり重い気管支炎を患いイランに戻ります。

イラン革命やイラン・イラク戦争で身近な人が死ぬのを見てきたマルジは、戦争からの帰還兵が平穏な生活を送れず、危険を承知で再び戦場に戻るように、再びイランで暮らし始めました。

しかし、イランに帰っても疎外感に襲われたマルジは重い鬱病になり、薬を飲んで自殺を図ります。夢の中で神様から

「お前はまだ死ぬには早すぎる。周りに流されず自ら行動を起こしなさい。」

と諭され、新しく生きるために行動を起こしました。

イスラム教では神様やムハンマドの姿を描いた偶像は禁止されていますが、このアニメではしっかり描かれて出演しています。

マルジは大学の美術部に入学し、新しい恋人と結婚しますが、厳しいイスラム教の規則に反発して革命防衛隊と衝突したり、新婚生活になじめず離婚します。

友人ニマが、秘密パーティーで酒を飲んでいるところを革命防衛隊に追われて死んだのをきっかけに、自由を求めてフランスに渡ります。

映画はここで終わっています。

この映画で気になった人物が二人居ります。

一人はマルジの祖母で、常に『自分に公明正大であれ』と言い続けて、マルジが間違ったことをするとたしなめて居ました。

もう一人は父の兄アヌーシュです。ロシア革命の影響でイランがプロレタリアートが支配する自由と民主的な国家になることを夢見て戦い続け、獄死しました。

マルジはこの二人の影響を受け、自分に正直に自由を求めて周囲と戦い続けましたが、イランでは受け入れてもらえず、フランスに亡命することになりました。

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