映画「栄光のランナー/1936ベルリン」　１９３６年開催のベルリンオリンピックで金メダル４個の偉業を成し遂げた、アメリカの黒人ランナーの物語です。

映画　「栄光のランナー/１９３６ベルリン」

２０１６年製作　　アメリカ・ドイツ・カナダ

ヒトラー政権下のベルリンオリンピックで、アメリカの黒人選手ジェシー・オーエンスは金メダル４個を獲得して、アーリア人の優秀性を証明しようとしたヒトラーの目論見を砕きました。

 

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監督	スティーヴン・ホプキンス
脚本	ジョー・シュラップネル アナ・ウォーターハウス
製作	ジーン＝チャールズ・レヴィ リュック・ダヤン ルイ＝フィリップ・ロション ドミニク・セガン スティーヴン・ホプキンス ケイト・ガーウッド カルステン・ブリュニヒ ニコラ・マニュエル
製作総指揮	ジョナサン・ブロンフマン デヴィッド・ギャレット ティエリー・ポトク アル・マンティーヌ マーク・スローン
出演者	ステファン・ジェームス ジェイソン・サダイキス ジェレミー・アイアンズ カリス・ファン・ハウテン ウィリアム・ハート
音楽	レイチェル・ポートマン
撮影	ピーター・レヴィ
編集	ジョン・スミス

あらすじと解説

映画「栄光のランナー」は、ベルリンオリンピックで４個の金メダルを獲得したジェシー・オーエンスの活躍を描くと同時に、映画の原題「Race」の別の意味「人種」をもう一本の柱として扱った映画です。

ベルリンオリンピックは１９３１年パリで行われた第１１回夏季オリンピックの開催地投票でスペインのバルセロナに４６対１６で勝って決まりました。

反ユダヤ政策を鮮明にしていたヒトラーは、オリンピックを「ユダヤ人の祭典」としてベルリンオリンピック開催に難色を示していました。

しかし、ゲッベルズら側近の「ドイツの復興や、アーリア人の優秀さを世界に示す絶好の機会である」との説得を受け、ベルリンオリンピックの開催を決意しました。

ユダヤ人以外にも、共産主義者や自由主義者なども迫害して国外追放や強制収容所入れているヒトラーの政策に対して、アメリカオリンピック委員会（AOC）は不参加の動きを見せていました。

その中で、選手として出場経験のあるブランデージ会長(1912年夏季ストックホルムオリンピックでで近代五種競技と十種競技に出場。成績は６位と１６位)は、オリンピック出場を主張し続けていました。

アベリー・ブランデージ(１８８７～１９７５)

出典　ウィキペディア

彼は第２次世界大戦後の１９５２年から１９７２年にかけて国際オリンピック委員会(IOC)第５代会長に就任しました。会長時代は徹底してオリンピックのアマチュアリズムを主張して、オリンピックの商業化に反対していました。

 

１９３３年ジェシー・オーエンスは、オハイオ州立大学に入学しました。彼は高校時代に１００ヤード走で世界記録を出し、走り幅跳びでは全米選手権に優勝していました。この時すでに彼は後で妻となるルースと付き合っていて、グロリアという娘が居ました。そのため学校に通いながら、ガソリンスタンドで働いて、お金を稼いでいました。

 

オハイオ州立大学ではかっての名ランナー、ラリー・スナイダーがコーチを務めていましたが、就任してから２年間大会で勝者を出せずオハイオ州立大学は低迷していました。

彼は第１次世界大戦で飛行教官をしており、終戦後は曲技飛行で生活しながらオハイオ州立大学に入学し、１９２４年パリの夏季オリンピックに出場選手として選ばれました。しかしオリンピック直前に、飛行機事故で負傷し選手生命を絶たれてしまいました。それ以後コーチとして生活していました。

このような状況の中で、映画は始まります。

ヒトラーのユダヤ人迫害政策について、アメリカオリンピック委員会(AOC)はブランデージ会長をベルリンへ視察のため派遣しました。

現地でブランデージAOC会長は、建設中のオリンピック・スタジアム（オリンピアシュタディオン)等の施設を見学しましたが、同時に市内のユダヤ人商店の店頭に貼られた、ユダヤ人商店からの不買運動参加のポスター、家から追い出されトラックで連れ出されるユダヤ人、公共施設へのユダヤ人立入禁止の立て札などでした。

ブランデージ会長は、ナチスドイツ宣伝省大臣ゲッベルズに対して、アメリカの不参加を盾に、ドイツの人種政策政策緩和を申し入れました。

アメリカのオリンピック不参加を恐れたドイツは、一時的にせよ人種政策緩和に同意しました。

二人の会話は英語とドイツ語で行われ、間に立って通訳した女流映画監督のリーフェンシュタールは二人の言葉をそのまま伝えることが出来ず、お互いの言い方を和らげて通訳するの苦労していました。

その後ブランデージ会長は、ドイツがワシントンに大使館を建設するビジネスに参加することになり、後で問題を引き起こします。

 

ジェシー・オーエンスは、コーチから州議会の雑用係の職員証を発行してもらい、月６０ドルの収入を得られることになり、練習に専念できることになりました。

１９３５年５月２５日ミシガン州アナーバーで行われた全米ビックテン選手権大会で、ジェシー・オーエンスは、３個の世界新記録と１つの世界タイ記録を出し一躍注目を浴びます。この時走り幅跳びで出した8ｍ１３㎝の記録はその後２５年間破られませんでした。

１９３５年１２月２３日、アメリカオリンピック委員会(AOC)総会が開かれオリンピック参加の是非を問う投票が行われました。

この総会ではオリンピックのために鍛錬を重ねてきた選手に対して、政治と切り離して参加すべきと主張するブランデージAOC会長と、ナチスの人種政策はオリンピック憲章の人種平等の精神に反するため、辞退すべきとのアメリカ・オリンピック委員会のマホニー委員長の意見が対立しました。

この二人の対立は、お互いに相手を非難せず、オリンピックと選手、オリンピックが社会に与える影響を真剣に考え、投票に参加した委員に対して、お互いが正々堂々と自分の意見を主張して賛同を求めました。

投票の結果５8対５6の僅差でブランデージ会長が勝ち、アメリカのベルリンオリンピック参加が決定しました。

この政治とスポーツとの問題は、ジェシー・オーエンス個人の所にもやって来ました。

ジェシーの家に全米黒人地位向上委員会(NAACP)からイリノイ州のデイヴィス議員が訪れてきました。彼はアメリカにおける黒人差別の反対を訴えるために、人種差別政策を打ち出しているヒトラーが主催する、ベルリン・オリンピックに参加しないよう、ジェシーに頼みに来たのでした。

ジェシーはアメリカの黒人を助けるためにオリンピックに参加しないか、参加して栄誉と名声を手に入れるかどうか、出発直前まで悩みました。

 

結局ジェシーはオリンピックに出場しますが、国の内外からの人種差別に反対するためには、絶対負けられない状態になります。

このプレッシャーを表すために、映画は１００ｍ決勝でジェシーがスタジアムに入る所から、スタート直前までの５分間セリフなしの長回しでジェシーの表情を追いかけていきます。

１００ｍで金メダリストになったジェシーに対してヒトラーは、それまで競技優勝者に対する握手を避けるため、スタジアムから去っていました。

 

２種目目の走り幅跳びの予選では、２回ファールを出したジェシーに対して、ドイツ人でヨーロッパチャンピオンのルッツ・ロングが踏切り線の数インチ手前から跳ぶようにアドバイスをして、ジェシーを助けました。

決勝ではロング出した記録をジェシーが破り、ジェシーの記録をまたロングが破り、その記録を再びジェシーが破るという激しい戦いとなりました。しかしロングが３回目の跳躍に失敗したため、ジェシーの優勝が決まりました。

 

１９３６年ベルリンオリンピック走り幅跳びの表彰台。中央はオーエンス、右が２位のルッツ・ロング。左は３位の田島直人。

出典　ウィキペディア

次の２００ｍ走でもジェシーの優勝が確実視されていたため、宣伝相のゲッベルズは記録映画の撮影を禁止しました。

これに対して映画監督のレニ・リーフェンシュタールは、ゲッベルズの撮影禁止を無視して映画を撮り続けました。

台車に載って撮影中のレニ・リーフェンシュタール。この映画でも同じような場面があります。

出典ウィキペディア

レニ・リーフェンシュタール監督にとってはな＋ドイツの宣伝映画を撮るより、オリンピックに参加した選手たちの肉体の美しさを撮る方を優先しました。

彼女の撮影したベルリンオリンピック（1936年）の記録映画『オリンピア』(『民族の祭典』と『美の祭典』の２部作)は、ヴェネツィア映画祭最高賞を受賞しました。

第２次世界大戦後はナチ党の党大会の記録映画『意志の勝利』と共にヒトラーのプロパガンダ映画を撮影したとして、映画界から追放されてしまいました。

ジェシーは２００ｍでも２位に大差で優勝して、３つ目の金メダルを獲得しました。

 

有色人種が金メダルを取るのを我慢できた宣伝相のゲッベルズでしたが、ユダヤ人が優勝するのだけは避けたいため、ブランデージ会長に４００ｍリレーに出場予定の二人のユダヤ人を外すように要求しました。

始めは拒否していたブランデージ会長でしたが、ワシントンにドイツ大使館建設に協力したことを公表すると脅かされ、承諾してしまいます。

ユダヤ人選手の代わりに出たジェシーですが、アメリカチームがこの種目で優勝したため、４つ目の金メダルを手に入れました。

 

４つの金メダルを持って帰国したジェシーでしたが、その後の生活は苦しかったようです。

 

メダル４つを携えて帰国したジェシーは大歓迎を受けたものの、その一方では相変わらず露骨な黒人差別を受け続けた。偉大な王者にふさわしい仕事も見つからなかった。抜群の人気と知名度を当て込んだ高額のオファーは多かったというが、本当にやりがいのある仕事はほとんどなく、金メダリストに対する敬意を欠いた申し出も少なくなかった。そのひとつが、馬と競走させるエキジビション・レースだったのはよく知られている。そんな仕事も引き受けねばならなかったのは、前人未到の実績をつくりながらも、自らの将来を見通すことさえできなかった苦しさゆえだろう。
戦火によって続くオリンピック２大会が中止になり、再び大舞台を踏む機会を得られなかったジェシーは、その後も不安定な暮らしを送らねばならなかった。スポーツの指導・普及役や親善大使として公的な仕事に携わりもしたが、その名声に見合う地位につくことは少なかったようだ。金メダル４個を獲得した名選手が、不遇ともいえる後半生を送らねばならなかったのは、やはり差別のために違いない。
引用　笹川スポーツ財団

 

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