なぜ戦争が始まるのか 

映画からその訳を探ってみようby亀仙人2世

映画「ガルフ・ウォー」湾岸戦争に出兵した兵士のうち帰国後に頭痛や倦怠感、果ては癌などの症状を訴える者が続出しました。

time 2018/04/23

映画「ガルフ・ウォー」湾岸戦争に出兵した兵士のうち帰国後に頭痛や倦怠感、果ては癌などの症状を訴える者が続出しました。

 

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亀仙人2

映画 「ガルフ・ウォー」

1998年   アメリカ(日本未公開)

湾岸戦争終了後出兵した兵士の中から、脱毛症・疲労感・痛み・記憶障害・倦怠感や関節痛などを訴える兵士が続出しました。中には癌を発症して死亡した人もいます。この映画はこれらの兵士を助けるため立ち上がった人たちと、アメリカ政府の対応を描いています。

監督     ロッド・ホルコム
脚本     ジョン・セイクレット・ヤング
製作     リサ・ニーデンタール
製作総指揮 アンディ・アデルソン
トレイシー・アレクサンダー
ジョン・セイクレット・ヤング
音楽    デヴィッド・ハミルトン
撮影    ポール・エリオット
編集    クリストファー・ネルソン

出演
テッド・ダンソン:ジム
ジェニファー・ジェイソン・リー:テリー
ブライアン・デネヒー:ドナルド
マージ・ヘルゲンバーガー:ジェリリン
スティーヴン・ウェバー:ジャレッド

湾岸戦争後、出撃した兵士の中には帰国後、体の不調を訴える者が多数出てきます。この症状は「湾岸戦争症候群」と呼ばれますが、当時のアメリカ政府はこれを否定していました。

イラン・イラク戦争と湾岸戦争の解説はこちら ↓

なぜ、アメリカの援助を受けていたサダム・フセイン大統領が、敵になったのか

この映画は題名に「ガルフ・ウォー(湾岸戦争)」とありますが、戦闘行為を主体としたものではなく、「湾岸戦争症候群」と呼ばれる病気で苦しむ帰還兵やその家族と、それを助けようとする上院議員の話です。

ですから戦争映画と思い、激しい戦闘場面を期待すると当てが外れます。

しかし、都合の悪いことは隠そうとする政府と、それを暴く正義派リーグル上院議員の戦いは見ものです。

解説とあらすじ(ネタばれあり)

本作品では、戦争に従軍したクリス・スモールと、戦争後戦場で使用した車両(戦車や兵員輸送車)の戦場のため現地に赴任したジェラン・ガリモアは帰国後徐々に体調を崩していきます。

そのほかに、湾岸戦争帰還兵本人とその家族のインタビューや証言をもとに作られた再現映像と、当時のニュース番組などの実写映像がはいります。所々に本人たちのインタビー映像が入ります。

このため、どこまでが本当に起きた部分か、どこからがドラマのフィクションの部分か、分かりにくくなっています。

第1海兵師団リッパー支帯特別作業班のグラス1等軍曹は、フォクス化学偵察車で勤務中、戦場で致死量の「硫黄マスタードガス」を検出しました。

彼は後に調査委員会で、戦場で化学兵器は使われていなかったとする政府側の主張を覆す有力な証言を行うことになります。

フォクス化学偵察車とマスタードガス

フォックス化学偵察車とは

M93フォックスNBC偵察車

ドイツのダイムラーベンツ社が開発した6輪駆動の装輪装甲車に、核兵器・生物兵器・化学兵器に汚染された地域で活動できるNBC(Nuclear/Biological/Chemical)対応能力を付与した偵察車両。1990年に湾岸戦争が始まった当時、米陸軍にはNBC対応能力を持つ偵察車両がなかったため、ドイツから緊急輸入し、M93として制式化した。写真(米陸軍提供)は、第1騎兵師団に所属する車両で、米テキサス州で渡河訓練の実施中に撮影した。

車体は全長6.8メートル、全幅3メートル、全高2.3メートルで、装甲は小銃弾や砲弾の破片を防げる程度だが、水密構造になっており、車体尾部に備えた2基のスクリュープロペラの駆動で浮上航行することができる。エンジンは出力370馬力のターボチャージャー付きディーゼルで、路上での最高速度は時速105キロ、水上航行でも同10.5キロのスピードを出すことができる。車体の気密性は高く、外気と接触せずに放射能や化学物質、細菌の検出が可能なように遠隔操作型のセンサーが備えられている。また、センサーが収集した情報を解析するデータ処理システムを搭載し、短時間で脅威の有無や程度を判断することが可能(2008年07月31日)

引用 写真と記事【時事通信社】

硫黄マスタードガスとは

マスタードガス(Mustard gas)は、化学兵器のひとつ。2,2′-硫化ジクロロジエチル(2,2′-Dichloro Diethyl Sulfide)という化合物を主成分とする。糜爛剤(皮膚をただれさせる薬品)に分類される。硫黄を含むことから、サルファマスタード(Sulfur mustard gas)とも呼ばれる。

マスタードガスは人体を構成する蛋白質やDNAに対して強く作用することが知られており、蛋白質やDNAの窒素と反応し(アルキル化反応)、その構造を変性させたり、DNAのアルキル化により遺伝子を傷つけたりすることで毒性を発揮する。このため、皮膚や粘膜などを冒すほか、細胞分裂の阻害を引き起こし、さらに発ガンに関連する遺伝子を傷つければガンを発症する恐れがあり、発癌性を持つ。

引用 ウィキペディア

マスタードガスは即効性の毒ガスではなく、徐々に人の体内から蝕んでいくのと、揮発性があるため、ガスを浴びた人が気が付かずに(皮膚に湿疹ができたりしますが)衣服や靴にガスを付着させたまま、宿舎に帰ったりすると、服や靴などから発生するガスで同じ部屋の人たちも汚染されてしまいます。

ガスを浴びたことによる直接の死亡率は5パーセントほどですが、健康不良により多くの兵士が戦えなくなります。

クリスはアメリカに帰還した後、微熱が続き疲れやすくなり家に閉じこもった切りになりました。やがて顔に湿疹が出てきたため、心配した妻のテリーは彼を連れて軍の診療所に行きます。

診断した医師は検査の結果、体に異常はなく、不調は精神的なものが原因と診断し、湾岸戦争に従軍したこととは無関係であると結論付けしました。もし、湾岸戦争に従軍したことが原因なら、治療費は軍が負担しなければならず、今回のように10万人もの医療費を負担すると莫大な金額になります。

戦後処理のため中東に赴任したジェラン・ガリモアは、戦地で使用された車両を洗浄する仕事に就きます。彼は帰国後に脳に腫瘍が見つかり、さらに脳浮腫も発病して危険な状態になりました。

有害物質で汚染された車両の洗浄には、下の写真のように防護服を着て行う必要があります。

出典 時事ドットコム

汚染された車両の洗浄 出典 時事ドットコム

しかしジェランの働いていた現場では、防護服どころか防護マスクもなく、作業後に体を洗う設備もありませんでした。

ジェランの手術を担当した医師は、腫瘍を摘出しましたが症状が改善されず余命1年と診断しました。

 

クリスには女の子が生まれましたが、発疹が出て治りません。またクリス自身の健康も悪化します。テリーは医師のところに行き、クリスの診断書を見せてくれるように頼みました。しかし、診断書は亡くなっていました。

実際に湾岸戦争に参加して発病した人たちも、同じように診断書がなくなったと証言しています。

ある議員は、インタビューで

「国防総省が記録を抹消したんです。証拠が残ると困るのでね。」

と答えています。

ある日クリスは自宅の庭で倒れてしまいました。非常に危険な状態となったクリスが湾岸戦争症候群であることから、ワシントンの陸軍病院へ移送する手続きを取ります。しかし湾岸戦争症候群は存在しないとして、陸軍病院への転送は断られました。以前診断書がなくなった経験があるテリーは、カルテの一部を抜き取って隠してしまいます。

テリーは退役軍人省や国会議員に手紙を書きましたが、無視されたためテレビに出て、軍が湾岸戦争症候群の治療記録を隠していることを告発しました。

 

ベトナム帰還兵のボブ・チュートは、ドナルド・W・リーグル・ジュニア上院議員のもとに送られて来た湾岸戦争帰還兵たちの手紙をもとに、患者と接触したり、診察した医師の話を聞いたりして独自の調査を開始しました。

この時点で、アメリカ軍は湾岸戦争帰還兵の発症した病気と、戦争に参戦したこととの関係は分からないとしています。

調査をしていたボブは、大変な事実を突き止めます。湾岸戦争に参戦した兵士たちが毒ガスの警報を受けたことや、病気を発症後に冷遇されたことの他に、イラクが製造した化学兵器の原料や、細菌兵器のもとになる炭疽菌・ボツリヌス菌などの細菌類をアメリカがイラクに提供していたことが分かりました。

ドナルド・W・リーグル・ジュニア上院議員(本人) 出典 ウィキペディア

リーグル上院議員はボブからの報告を受け

「私が信じていた国は、湾岸戦争に兵士を送った。

生物化学兵器に対して、十分な装備も情報も与えずに。

その一方でアメリカは、生物化学兵器の原料を提供していた。

兵士はどうなる?

国はそれを隠した。

もう我慢の限界だ。真実を明らかにする。」

と言って政府と対決することを決意します。

彼は

「米国化学および生物兵器関連題し、デュアルユース(平和目的と軍事目的の両方に適用される技術)のイラクへの輸出や湾岸戦争の健康影響にその可能性のある影響」

という『Riegle Report』を作成して、そのコピーを大統領・国防総省・国防情報局に送りました。

もしこの対決に敗れれば、マスコミから物笑いの対象にされ、政府の反感を買い28年に及ぶ議員生活を絶たれることになります。

このようなリスクを冒してまで、真実を明らかにしようとする国会議員がいるアメリカは素晴らしいことです。

1996年5月5日、湾岸戦争の病気に関する大統領諮問委員会でこのサイトの冒頭に出てきた第1海兵師団リッパー支帯特別作業班のグラス1等軍曹が、指揮していた化学偵察車が硫黄マスタードガスを検出したと証言をして、イラク軍が生物化学兵器を使用した証拠はないが、兵士が生物化学兵器に接触した可能性は否定できないことを証明しました。

この時はアメリカ軍がイラクの兵器貯蔵庫を爆撃し、その時貯蔵していた毒ガスが漏れ出したようです。

映画の最後に流れるテロップで

1996年6月22日、ワシントンポストは国防総省は300~400人に対して毒ガスへの汚染を認めました。

1996年9月19日の同紙で、汚染された兵士の数は5000人に達する見込みと報道されます。

1996年10月23日の報道では、20867名、さらに年が明けた1997年7月24日CIAによる試算では10万人の兵士が汚染されたとしています。

これは湾岸戦争で動員された70万人の兵士7人のうちひとりが、何らかの被害を受けたことになります。

クリスは娘の病気も治り、親子3人無事暮らしています。

脳に腫瘍が発見されたジェラン・ガリモアは治療の甲斐もなく、死亡しました。

 

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