いま日本では、自民党の中から日本国憲法を改正しようとする声が上がっています。その中で、今まで「日本国憲法」には記載されていなかった「非常事態宣言」を出すことのできる「緊急事態条項」という項目を、新たに設けようとする動きがあります。
しかし、自民党の「日本国憲法改正草案」で検討している「緊急事態条項」には大きな落とし穴があり、このままでは容易に独裁者が生まれる危険性があります。
では、自民党の提案している「緊急事態条項」がどうして危険なのか、書いてみます。
この項目を書くにあたって、下の3冊を参考にさせていただきました。
sponsored link
亀仙人2「立憲主義」とは何か。憲法と法律の違い
立憲主義とは
立憲主義とは、政府の統治を憲法に基づき行う原理で、政府の権威や合法性が憲法の制限下に置かれていることに依拠するという考え方。「憲法に立脚する」という意味合いである。なお、立憲主義を前提とした民主主義を立憲民主主義と呼ぶ。引用ウィキペディア
政府を構成する政治家、国会や地方議員、裁判官、公務員等の人たちは憲法に書かれていることを守って行動してください、ということです。
上に上げた本の著者の一人、長谷部恭男さんが立憲主義について説明している動画がありました。大変分かりやすいので、ぜひ見てくださるようお願いします。
2015年6月4日 衆議院憲法審査会 長谷部参考人
「憲法と法律の違い」簡単に言えばこうなります。
憲法と法律の違いなんて、普段の生活の中では深く考えません。
しかし、訊ねられると「どう違うのだろう」と考え込んでしまいます。
単純に言うなら「憲法は国家権力に対して制限を行い、国民の人権を保障する」ものであり、「法律は国家権力が国民に対して制限を掛ける」ものです。
もっと簡単に言うなら、憲法は国のルールで、法律は国民のルールでしょうね。
ただし、法律は憲法に定められた範囲内で作られるため、国家にとって都合の良い法律は作れません(基本的には)。
また、日本では憲法、法律の他にも「政令」「条例」があります。
法律は国会で作りますが、政令は内閣で作り、条例は地方公共団体が作るように、制定する組織が違います。
憲法は権力を国家に渡す代わりに、国民の権利・自由を守る為にこれだけは守ってくださいと、国家権力を制限するものです。
法律とは、社会生活を保つために定めた、支配的(特に国家的)な規範です。
上に上げた長谷川恭男さんの本では、車を運転するとき、それぞれが勝手に動かすと事故が多発して大変なことになります。そこで自動車が道を通るときは、お互いに道の左側を通りましょうとか、信号機の指示を守って渡りましょうなどと決めて、みんながこれを守ればスムーズに車が通ることが出来、事故も少なくなります。このような社会生活を送るのに必要する、国が定めた取り決めを法律と言います。
日本国憲法では「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」の3原則を守るよう国に要求しています。逆に言えば国はこの3つの原則を破ることはできません。
自民党が計画している憲法改正案
自民党憲法改正草案はこちらで見ることが出来ます。
日本国憲法改正草案はこちら ↓
出典 自民党 憲法改正推進本部 ←クリックしてください
日本国憲法改正草案Q&A(増補版)はこちら ↓
出典 自民党 憲法改正推進本部 ←クリックしてください
憲法改正を分かりやすく説明した「漫画政策パンフレット」はこちら ↓
出典 自民党 憲法改正推進本部 ←クリックしてください
自民党が憲法改正で新たに加えようとしている「緊急事態条項」の何が問題
自民党憲法改正草案に見る緊急事態条項とは、下の文章です。
第九章 緊急事態
(緊急事態の宣言)
第九十八条
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、
内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な
自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に
必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、
閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2
緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、
事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3
内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決が
あったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決
したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要
がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議
にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。
また、百日を超えて緊急事態の宣言を
継続しようとするときは、百日を超えるごとに、
事前に国会の承認を得なければならない。
4
第二項及び前項後段の国会の承認については、
第六十条第二項の規定を準用する。
この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、
「五日以内」と読み替えるものとする。
(緊急事態の宣言の効果)
第九十九条
緊急事態の宣言が発せられたときは、
法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の
効力を有する政令を制定することができるほか、
内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、
地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2
前項の政令の制定及び処分については、
法律の定めるところにより、
事後に国会の承認を得なければならない。
3
緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の
定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の
生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発
せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。
この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、
第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、
最大限に尊重されなければならない。
4
緊急事態の宣言が発せられた場合においては、
法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、
衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及び
その選挙期日の特例を設けることができる。
極端な場合、独裁者になろうとする人が日本に現れた場合、簡単になることが出来ます。どこが問題なのか、書いてみます。
問題点その1
内閣総理大臣は簡単に緊急事態の宣言を出すことが出来る。
九八条の最初に、こう書いてあります。
「我が国に対する外部からの武力攻撃、
内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な
自然災害その他の法律で定める緊急事態」
これによると、何が緊急事態かきちんと書いてありません。特に赤字で書いた「等」の文字が入っていると「なんでもあり」と同じになります。
また「法律で定める」とありますが、緊急事態を決める肝心の法律が存在しません。
法律を作ったところで、与党が過半数を超えている場合、歯止めがなくなります。
したがって何が緊急事態になるかは、内閣総理大臣の考え方だけで決まってしまいます。
問題点その2
やろうと思えば、いつまでも緊急事態宣言を出し続けられます。
第九八条の第二項から第四項にかけて緊急事態宣言は国会の承認が必要なことと、百日の期限を設け、期限を超えるごとにも国会の承認が必要と定めています。しかし、国会で議員数が過半数を越えた場合、意味がなくなります。
更に、九九条第四項にこう書いてあります。
「緊急事態の宣言が発せられた場合においては、
法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、
衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及び
その選挙期日の特例を設けることができる。」
これにより、過半数を超えた時点で任期を延長すれば、ずっと国会の承認を得られ続けられます。
問題点その3
内閣総理大臣は緊急事態宣言が発せられると、国会の審議を経ないで、法律と同じ効力を発する政令を作ることが出来る。
ヒトラーは1933年3月23日、全権委任法(民族および国家の危難を除去するための法律)により、自ら法律を作る権利を手に入れました。
全5条からなる全権委任法の第2条に書かれた条文の赤い字の部分によって、ナチ党以外のすべての政党を非合法化して、一党独裁政治を作り上げました。
“全権委任法第2条
ドイツ政府によって制定された法律は、国会および上院の制度そのものにかかわるものでない限り、憲法に違反することができる。ただし、大統領の権限はなんら変わることはない。”
日本の場合はどうでしょう。
第九十九条第三項
「緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の
定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の
生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発
せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。
この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、
第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、
最大限に尊重されなければならない。」
ここて゛第十四条(法の下の平等)、第十八条(身体の拘束及び苦役からの自由)、第十九条(思想及び良心の自由)、第二十一条(表現の自由)、を最大限尊重すると書いてありますが、制限してはならないと言っていません。
ですから先のヒトラーと同じように、自民党以外の政党の政治活動を禁止して、違反する者を逮捕・拘束して一党独裁へ持っていくことが可能です。
更に第九十九条の定める
「内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、
地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。」
によって、内閣総理大臣は、必要な国家予算を自分で決め、使うことが出来、気に食わない県知事等、地方自治体の長を辞任させることが出来ます。
これで、日本にヒトラーと同じような、独裁者が出来あがります。
ヒトラーがどのように独裁者になったかは下の映画の解説の後半に書いてあります。