なぜ戦争が始まるのか 

映画からその訳を探ってみようby亀仙人2世

映画 「アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発」なぜ戦争になると普通の人が、人殺しを出来るようになるのか。その謎を解く実験を行った人がいます・

time 2024/11/06

映画 「アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発」なぜ戦争になると普通の人が、人殺しを出来るようになるのか。その謎を解く実験を行った人がいます・

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亀仙人2

映画 『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』

2015年           アメリカ

1961年 8月 7日から、エール大学の心理学者スタンレー・ミルグラム(アイキャッチ画像の人)によって一連の社会心理学実験(ミルグラム実験)が行なわれました。その実験目的は権威者によって命令された場合、普通の人が自分の良心に反する行動を取る人がどのくらいの割合でいるか調べる事でした。実験の結果、一般の人でも権威者に従って殺人などの非道な行為を取る人の割合が、65%も居ることが分かりました。

 

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監督 マイケル・アルメレイダ
脚本 マイケル・アルメレイダ
製作 ダニー・A・アベケイザー
アイゼン・ロビンズ
ファビオ・ゴロンベック
パー・メリータ
エイミー・ショーフ
ユーリ・シンガー
出演者
ピーター・サースガード – スタンレー・ミルグラム
ウィノナ・ライダー ― アレクサンドラ・”サーシャ”・ミルグラム
エドアルド・バレリーニ – ポール・ホランダー
ジム・ガフィガン – ジェームズ・マクドナー
アンソニー・エドワーズ – ミラー
ジョン・パラディーノ – ジョン・ウィリアムズ
ネッド・アイゼンバーグ – ソロモン・アッシュ
ロリ・シンガー – フローレンス・アッシュ
タリン・マニング – ミセス・ロウ

解説とあらすじ

ミルグラム実験のきっかけとなったアイヒマン裁判について

1961年8月7日、アメリカ、イェール大学の心理学者、スタンレー・ミルグラム(アイキャッチ画像の人)は、第2次世界大戦中多くの一般的なドイツ人がヒトラーに従ってホロコーストに協力したことに疑問を持ちっていました。

ミルグラムの両親は、第1次世界大戦中にルーマニアとハンガリーからアメリカにやってきたユダヤ人の移民で、彼の近親者の中にはナチスの強制収容所を生き延び、ニューヨークで彼の一家と一緒に暮らしていた者も居ました。

1961年、数百万人ものユダヤ人を絶滅収容所に移送することに指揮者としての役割を担ったアドルフ・アイヒマンの裁判がイスラエルで始まりました。彼はゲシュタポのユダヤ人移送局長官で、第2次世界大戦後アルゼンチンに逃亡していましたが、1960年モサド(イスラエル諜報特務庁)によって発見されイスラエルに連行され、1960年4月より人道上の罪や戦争犯罪による裁判が行われました。

1961年、アイヒマン裁判の様子

防弾ガラスで作られた小部屋の中に入っているのが、アイヒマン。

立っているのが検察官のギデオン・ハウスナー。その左にいる白髪の男性が、弁護士ロバート・セルヴァティウス。

出典 wikipedia 

この裁判を傍聴したユダヤ人哲学者のハンナ・アーレントは著書『エルサレムのアイヒマン──悪の陳腐さについての報告』で、アイヒマンはホロコーストに関係した極悪人でなく、ただ出世欲にかられ上司の命令に忠実な小役人にすぎないと評しました。そうはいってもアイヒマンの仕事は、ヨーロッパ各地から集めたユダヤ人を、ポーランドにある絶滅収容所に送る鉄道輸送の責任者でした。

ナチスの親衛隊大将ラインハルト・ハイドリヒと共に、ユダヤ人問題の最終的解決(ホロコースト)の実施計画を練り、絶滅収容所を建設し、多くのユダヤ人を鉄道で絶滅収容所に送ったのがアイヒマンでした。

アドルフ・アイヒマン 1942年

出典 ウィキペディア

1942年1月20日ベルリンの郊外にあるヴァン湖(ヴァンゼー)畔にある親衛隊の所有する別荘で、ユダヤ人問題の解決をめぐる各省庁間の官僚や、軍部との会議が行われ、ユダヤ人問題の最終的解決(ホロコースト)実施が決定されました(ヴァンゼー会議)。アイヒマンはハイドリヒの命を受けガス室を併合した絶滅収容時の建設や、ユダヤ人を絶滅収容所に送る輸送計画を練り上げました。

詳しくは、ヴァンゼー会議の映画の解説を見てください ↓

映画『ヒットラーのための虐殺会議』ユダヤ人に対するホロコーストの実行計画を決めた会議です。

 

ミルグラム実験の実施方法

アイヒマンの裁判によってミルグラム博士は、平凡な人が上司や上官などから良心に反する命令を受けた場合等、一定の条件下では冷酷で非人道的な行為を行う人がどのくらい居るか、調べようとしました。

そのためイエール大学の学生ではなく広く一般の人から、実験の協力者を集めました。下はイエール大学のあるコネチカット州ニューヘイブンの地元紙に実験の協力者募集の広告です。


1961年に出した実験の参加者を求める広告
1時間ほどの実験に参加すると謝礼4ドル(現在だと約40ドル)と交通費50セント支払うと書いてあります。

出典 ウィキペディア

実験の手順

応募された参加者2名は実験者から

「学習するに当たって、罰受けた場合どのくらい効果があるか、調べる実験です。」

との簡単な説明の後、戦線役と学習者役のどちらかを決めるくじ引きが行われます。

こけにはカラクリがあって、くじはすべて先生役と書いてあって、最初の引いた人が先生役になるようになっています。

学習者役の人は後で詳しく述べますが、実験者と協力して先生役の人に圧力をかける役目を持っています。

実験は先生役の人が「青い少女、よい日、太い首、緑のインク、」など2つの単語でできた言葉を学習者に覚えさせます。10個の言葉を覚えさせた後、「青い」の単語に続く言葉を「1少年、2少女、3草、4バット」の4つの単語の中から正解のは番号の答えを押してもらいます。

もし答えが間違っていたら、戦線役の人は机の上に置かれた電撃発生器のスイッチを入れ、電線でつながれた学習者に電気ショックを与えます。さらに最初の間違いでは15ボルト、2回目は30ボルト、3回目は45ボルトと電圧を上げていき、最後は450ボルトまで行きます。

 

実験の略図。被験者である「教師」Tは、解答を間違える度に別室の「生徒」Lに与える電気ショックを次第に強くしていくよう、実験者Eから指示される。だが「生徒」Lは実験者Eと結託しており、電気ショックで苦しんでいるフリをしてもらいます。

出典 ウィキペディア

 

映画の中のミルグラム博士と電撃発生器。

機械の下部にあるスイッチは、15ボルトから450ボルトまで30個のスイッチが並んでいて、1つ間違えるたびにより高い電圧を送れるようになっています。

出典 YouTubeの予告編から

電撃機のスイッチの所には、電圧の表示の他

15ボルト “SLIGHT SHOCK”(軽い衝撃)
75ボルト “MODERATE SHOCK”(中度の衝撃)
135ボルト “STRONG SHOCK”(強い衝撃)
195ボルト “VERY STRONG SHOCK”(かなり強い衝撃)
255ボルト “INTENSE SHOCK”(激しい衝撃)
315ボルト “EXTREME INTENSITY SHOCK”(はなはだしく激しい衝撃)
375ボルト “DANGER: SEVERE SHOCK”(危険: 苛烈な衝撃)
435ボルト “X X X”
450ボルト “X X X”

と記されています。

学習者の人は与えられた電圧によって、あらかじめテープに録音した音声を流す他、椅子をゆすったり、壁をたたいたりします。

75ボルトになると、不快感をつぶやく。
120ボルトになると、大声で苦痛を訴える
135ボルトになると、うめき声をあげる
150ボルトになると、絶叫する。
180ボルトになると、「痛くてたまらない」と叫ぶ。
270ボルトになると、苦悶の金切声を上げる。
300ボルトになると、壁を叩いて実験中止を求める。
315ボルトになると、壁を叩いて実験を降りると叫ぶ。
330ボルトになると、無反応になる。

330ボルト以後は、答えがなくても10秒後には答が間違っていると見なし、次の段階に進みます。最後に450ボルトの電撃を3回与えたところで、実験は終了します。

こう書くと学習者は死んでしまうと思いますが、実際はブザー音だけで、電気は流れていません。

 

学習者からの苦痛の叫び声を聞いた先生役の人は、実験者に実験の中止を訴えます。

実験者はその度、次のように答えるように決められています。

1,「続行してください。」
2,「この実験は、あなたに続行していただかなくてはいけません。」
3,「あなたに続行していただく事が絶対に必要なのです。」
4,「他の選択肢はありません、あなたは続けるべきです。」

この答えの間に、先生役の人が拒否をみせると「体に後遺症を残すことはありません。」「責任は我々がとります。」と答えて実験を続けるよう求めます。

4回実験を続けるように促された後、さらに実験の参加を拒否すると実験は終了となります。

問題なのは、330ボルトの電撃を加えた後、学習者の反応が亡くなった後です。学習者が実験に協力するのを拒んで答えないか、気絶してしまったか、最悪の場合は死んでしまったことも考えられます。

それにもかかわらず、電圧を上げ続け450ボルトの電圧を3回かけるまで継続した人の割合はどのぐらいでしょうか。

実験に先立ち、ミルグラム教授の授業を受けている心理学専攻の4年生の学生14人のアンケートでは、試験者の多くは強い電撃を与える150ボルトで実験を取りやめ、実験の最後の450ボルトの電圧をかけるまで行くと予想した人の割合は平均で1.2%でした。

実験の結果は、最初学習者は声を出さずうめき声や悲鳴、壁をたたくなど等の場合は、参加者40名の内26名(65%)が最後の450ボルトの電撃を与えるまで行きました。さらに300ボルトになる前に実験を中止した人は出ませんでした。

次に学習者が音声で中止を求めたり、抗議したりした場合も参加者40名中25名と最初とほとんど変わりませんでした。

さらに女性だけ40人で調べた結果も、最後まで行ったのは40名中26名と男性の場合と同じでした。

さらに先生役と、学習者を同じ部屋に入れた場合(このときは40名中16名が実験を停止)や、先生役の人が学習者の手を掴んで電極に押しつけて実験した場合(46名中12名)等と実験のやり方を変えて行いました。

実験後にミルグラム教授は先生役の人に、実際の電圧は表示された電圧よりはるかに低い電圧で、学習者には何の被害が及んでいないことを明かしました。また学習者は正解1回につき、3回間違った答えを言うようにしていました。

実験は1962年5月27日に、終了しました。参加した人の数は1000人に以上に及びました。その4日後の1961年6月1日、人道に対する罪など15の罪で有罪となったアイヒマンに対して、絞首刑が執行されました。

ミルグラム実験の反応

1963年、ミルグラムは異常・社会心理学ジャーナルに論文服従の行動研究」 を発表し、実験の詳細な記録を公表しました。

1974年には著書『権威への服従: 実験的視点(Obedience to Authority: An Experimental View )』を出版してさらに詳しく、この実験の内容を発表しました。この本は「服従の心理」の名前で翻訳され、河出書房新社から発刊されています。

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この実験は世界各国で繰り返され、ほぼ同じような結果になることが、確かめられました。

しかし、実験結果が発表されると大きな反発が起こりました。しかし反論の多くは、この実験に参加人たちを騙して、残酷な行為を強制させたという批判でした。

ミルグラム実験は内心はどうあれ、権威者に請求される要求に従ってしまう人が、半分以上いることが証明されました。

ヒトラーへの服従で多くの人が協力してユダヤ人大虐殺を行ったことは、珍しいことではなく、歴史上ではいくらでも見られます。

古くは旧約聖書の申命記20-17では

『すなわちヘテびと、アモリびと、カナンびと、ペリジびと、ヒビびと、エブスびとはみな滅ぼして、あなたの神、主が命じられたとおりにしなければならない。』

と書かれています。

歴史というものは、戦争と大虐殺によって作られていると言っても、過言ではないと思います。

ヒトラーによるユダヤ人大虐殺の少し前には、ソビエト連邦のスターリンによってウクライナ人への飢餓(ホロドモール)や、大粛清により多くの人が死んでいます。

ホロドモールを扱った映画があります ↓

映画「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」1932年~1933年にかけてウクライナで起きた大飢饉を扱った映画です。

ナチスドイツの時代、多くの人がヒトラーを支持するようになった過程にに関する解説はこちらのシリーズに書いておきました ↓

なぜ、ヒトラーは、ドイツ国民から熱狂的な支持を受けることが出来たのか? その1

ヒトラーが、どのようにホロコーストを行ったかの解説はこちら ↓

ヒトラーによる、ユダヤ人迫害(ホロコースト)前編 第2次世界大戦まで

1967年4月、カリフォルニア州パロアルトにある、エルウッド・P・カバーレイ高校でナチス時代の全体主義を体験させる模擬実験が行われました。その結果想像を超える事態が起きてしまいます。↓

映画 「ザ・ウェーブ」 ナチスドイツ時代、大衆が権力に対して、いかに簡単に操られるか、示した映画です。

 

 

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